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「白雪、どうかした?」
「…え?…あ……いいえ。どうもしないわ。貴方こそ…どうしたの?」
「……え、……っと…」
黒鋭の呼び掛けに上擦りながら返事をして聞き返すと、彼は何故か口ごもってしまった。
いつもの様子と少し違う。彼こそ何かあったのではないだろうか。そう思うと、自然と手に力が入ってドアを開けていた。
目線を斜め上に上げてみると、びしょ濡れになった彼が、顔を横に向けていた。
彼は無言で、視線を合わせずに突っ立ったまま。白雪は対応に困ったが、ずっと廊下と部屋の境目で硬直しているわけにもいかず、一先ず彼を室内へ招き入れた。
「これ使って。濡れたままだと風邪をひくわ」
大きめのタオルを手渡すと、黒鋭は小声で礼を言い、上着を脱いで渡されたタオルで顔や首筋を拭いた。
「どうしたの?…そんなに濡れて」
黒鋭の上着をハンガーに掛けながら白雪が聞くと、彼は言いづらそうに小さく口を動かした。
声が小さく、言っていることが聞き取れない。
「え?…何?」
耳を澄まして再度聞く。
……と、
「雨だったから嫌な思いしてるんじゃないかと思ったんだよっ」
開き直ったように、黒鋭は来た理由を淡々と明かし始めた。
出会った日、煌呀が死んだ日、どちらとも天候は雨で、白雪の様子がおかしかった。彼は、彼女が雨を恐がっているのではと心配になったそうだ。
白雪は唖然として黒鋭を見つめ、黒鋭は恥ずかし気に顔を背けて、頬をうっすらと赤らめていた。
「…………ふっ……」
「………?…白雪?」
小さく耳に入った失笑。
顔を背けていた黒鋭が正面に向き直ると、そこにはさっきまで唖然と自分を見つめていた白雪が、口元に手をあてがってクスクスと笑う姿があった。
初めての彼女の笑顔に黒鋭はドキリとして、そのまま目が離せなくなっていた。
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