第四話 笑顔と名前

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心強い。確かな存在が目の前にいる。 白雪は照れ臭そうに礼を言った。 「ねぇ、君は白雪って呼ばれるのと、本当の名前で呼ばれるの、どっちがいい?」 「名前…?」 唐突な質問に、白雪は眉を曇らせる。 「あぁ。偽名で呼ばれるより本名の方がいいだろう?」 今更だか、その場凌ぎで作ったような偽名より、本当の名前で呼ばれる方が誰だっていいはずだ。 「私の名前は白雪でしょう?」 「………え?」 予想だにしていなかった彼女の言葉に、黒鋭は何と返せばいいのか分からず、ポカンと口を開いていた。 彼女は涼しい顔で、割り切ったように言う。 「人との関わりを絶ったあの日、私は自分の名前を明かさないと決めたの。だから私を呼ぶ時は白雪でいい」 そう言って、「貴方は?」と聞き返す。 自分は白雪でいいが、こういった話を持ち出してきたというかとは、彼は本名で呼んでもらいたいのだろう。 だが、白雪は黒鋭の名前を知らなかった。教えてもらわなければ、呼べるものも呼べない。 「俺の名前は黒鋭一つだよ」 少々的の外れた応えだった。黒鋭は取り繕うように言葉を続ける。 「俺には親に付けられた名前がなかった。自分で付けてみたりしたけど、虚しくて駄目だった。だから君に…白雪に名前を貰うまで、名前がなかったんだ」 自分が自分自身になれていないようなモヤモヤしたものが、名前を持っていなかった頃にはあった。 でも、今はそんな物見る影もなく晴れやかだ。 自分は黒鋭。黒鋭が自分。 黒鋭は穏やかな表情で、白雪の肩に頭を垂れた。 「そうだよね」 ぽつりと呟き、ホッとしたように目を閉じる。 何だか、彼女に認めてもらえた気がした。 自分は黒鋭で、彼女は白雪。 それでいいのだ。 今はまだ。 .
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