第一話 白と黒

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私は誰か。 名前。年齢。血液型。 その程度のことしか知らない。 自分のことなのに。 母親の顔も、父親の顔も覚えていない。いや、知らないのかもしれない。 私はずっと一人で生きてきた。 ずっとずっと…ずっと。 悲しみ。痛み。怒り。絶望。憎しみ。 どの言葉が私のこれまで、これからを表しているのか分からない。 ただ一つ言えるのは、私に幸福、安らぎなんて訪れないということ。 私は安息なんて望んではいけない。 望めばすぐに奪われるから。 私は一人。 今も昔も。 未来永劫… 闇の中。 偶然。 現在、私がこの街で暮らしているのは、ただの偶然。 住む場所を変えるのは、これで何度目だろうか。一定の場所にいれば、いつかあいつに見つかる。それを避ける為に、幾度となく住む場所を変えた。両手の指だけでは足りないだろう。 9歳にも満たないあの日からなのだから。 夜、眠りに付くと聞こえてくる声。 動かない体。 広がる闇。 眠れない夜を何度も繰り返した。 今でも時折、嵐や雨の夜に、その悪夢を見ることがある。 その度に、自分の心臓を刃物で貫いて、この命を絶ってしまいたいと思う。 私の名前。 誰に与えられたのかも分からない自分の存在を示す物。 今日が始まる。 あいつも知る、たった一つの名前を持つ私の一日が。 「ギャアアア!!」 喉が裂けるほどの叫び。 口から血を流し、体に傷を負った人間達が床に転がっている。 全員、白衣を身に付けている。 忌ま忌ましい実験をする研究者達。 被害にあった、子供から老人に至るまで、全員を逃がした。
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