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私は誰か。
名前。年齢。血液型。
その程度のことしか知らない。
自分のことなのに。
母親の顔も、父親の顔も覚えていない。いや、知らないのかもしれない。
私はずっと一人で生きてきた。
ずっとずっと…ずっと。
悲しみ。痛み。怒り。絶望。憎しみ。
どの言葉が私のこれまで、これからを表しているのか分からない。
ただ一つ言えるのは、私に幸福、安らぎなんて訪れないということ。
私は安息なんて望んではいけない。
望めばすぐに奪われるから。
私は一人。
今も昔も。
未来永劫…
闇の中。
偶然。
現在、私がこの街で暮らしているのは、ただの偶然。
住む場所を変えるのは、これで何度目だろうか。一定の場所にいれば、いつかあいつに見つかる。それを避ける為に、幾度となく住む場所を変えた。両手の指だけでは足りないだろう。
9歳にも満たないあの日からなのだから。
夜、眠りに付くと聞こえてくる声。
動かない体。
広がる闇。
眠れない夜を何度も繰り返した。
今でも時折、嵐や雨の夜に、その悪夢を見ることがある。
その度に、自分の心臓を刃物で貫いて、この命を絶ってしまいたいと思う。
私の名前。
誰に与えられたのかも分からない自分の存在を示す物。
今日が始まる。
あいつも知る、たった一つの名前を持つ私の一日が。
「ギャアアア!!」
喉が裂けるほどの叫び。 口から血を流し、体に傷を負った人間達が床に転がっている。
全員、白衣を身に付けている。
忌ま忌ましい実験をする研究者達。
被害にあった、子供から老人に至るまで、全員を逃がした。
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