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『魂の重みだ』
アルウェルは言った。
『その銃はまっこと面白いのう。前の持ち主の残滓が染み付いておる』
「残滓?」
『前の持ち主は生来より幸薄かったのであろう。"妬み"、"憎しみ"、"苦しみ"、"絶望"………それからはかなりの恨み辛みが感じられる』
「パパは死んだ。十年前、パパは………パイモンって死神と戦って相打ちになった」
『………つかぬ事を聞いたな、すまぬ』
「いいよ、別に………十年も前のだし」
とはいえ、ジェレミィの心には後悔ばかりが今だ犇めく。
あの時自分が衰弱した養父を引き止めていれば、養父は死ななかったかもしれない。
養父が死んだ後に見つけた養父の思念は気にするなと言ったが、十年とはいえ歳を重ねる毎に後悔は増していく。
ジェレミィも解っていた、今頃になって『もし』は無い。
だから今、自分に出来る事をしているつもりだった。
"卵"の力で、家族の幸せを取り戻そうと思った。
「アルウェル、今の話忘れてくれ」
『よかろう。して小僧、"卵"はこの先に在るのだが、はよう行かぬで良いのか?』
「もう行くよ。早く叶えられるならその方が時間の有効利用だしね」
そう言ってジェレミィは銃がホルスターに納まったのを確かめ、扉に手を掛けた。
見た目の数十倍は重かった扉をアルウェルの力で押してもらい、ジェレミィは進む。
気分は高揚していた。
長年の願いを、漸く叶えることができる。
マーブルの蒼い瞳には、後ろ姿のジェレミィがとても幸せそうに映った。
‡‡‡‡‡‡
幾つもの仕掛けを越え、その先に在ったのはやけに整備された部屋だった。
アルウェルの居た部屋ですら部屋と呼ぶには難しい岩だらけの広間であったのに、此処の部屋は計算しつくされたように見事な立方体であった。
天井はかなり高く、奥は光り輝きそこに在るモノの識別を難しくさせた。
眩しくて目がチカチカするのを堪えて近寄れば、巨大な柱が数多そびえ立つ水晶群だった。
その台座に抱かれるように握りこぶし大程度の大きさの丸い宝珠が嵌まっていた。
抱く物が水晶であるなら、抱かれた宝珠はまさに真珠。
水晶が放つ光を浴びて虹色に輝く様は美しいの一言だった。
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