キセキ

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タイミング良いのか悪いのか、皿を抱えた神鵺が入ってくる。 「はーい、お待ちかね。カボチャの即席プディング一丁あがりぃ!…何でバルムンク死んでんの?」 「ゼフィのスカートめくったから」 「…あ、約束の我紅兎」 「こーいうV系って、どっちかってゆーとゼフィの方が好きだと思うんだけど」 折り畳みテーブルを展開して巨大皿を下ろした神鵺に、ジェレミィはCDを渡す。 「ゼフィはV系より郷田久美とか伊多田光とかの方が好きだもんね」 「ねー、プリン~。はやくたべたい!!」 「ほらクレス落ち着けっ。ロードが喰わなきゃ腐るほど有るんだから」 「どーいう意味だよ」 「や、否定しないけど。こん前の麻婆豆腐といい炒飯といい杏仁豆腐といい、死神ってそんなに胃袋大きいの?」 「え?オレのがデカすぎるだけ」 「あーそーですか…やっぱ神鵺のデザート美味そう」 「お世辞でも嬉しいぜ」 「や、お世辞じゃないんだけど」 小さなデザートカップにカボチャプリンを取り分けながら、神鵺はニカッと笑う。 クレスは鮮やかなオレンジ色をしたプリンを、目を輝かせて見ている。 「クレス向けにあんまり甘くしてないから、抵抗無く食えんだろ」 「うん、おいしー!」 「こらこら、こぼれる」 「今度はピーマンでチャレンジ―――」 「しなくて結構」 それだけは、ジェレミィもはっきり断った。 ‡‡‡‡‡‡ 「あらあら………まったく、面白い事になっていますね」 背の高い木の枝に腰掛けて片眼鏡を拭きながら、金髪の青年は苦笑いした。 「ほんと、遥か昔に見た懐かしい光景です。本当に昔だったら、あの場に居るのは人間ではなく僕だったのでしょう。子供だったのはロードでしょう。はぁ、昔は良い実験サンプルになってくれたのに、一体いつから反抗し始めたんでしたっけ?」 歎いて、青年は月を見る。 「あぁ、故人を顧みての月見酒とは良いものですねぇ。貴方様もかつては僕にそうおっしゃっいました…ロードはデリカシーが無いのでどうでも良さそうでしたが」 傍らに置いた今時古風なお猪口に酌をすると、青年は猪口を月に掲げた。 「…また、皆で酌み交わす時が来ると良いですねぇ…貴方様はおそらくワインでしょうが」 掲げた猪口は砕けて、中の日本酒が青年に降り懸かる。 「…何故、今はシリアスの筈なのに…」 どうやら、猪口が割れたのは偶然らしい。
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