プロローグ

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  「皆―――っ、よーく見ててね―――!」 『うおぉおおおおおおっ!!』  拡声器も使わずに響き渡る高く澄んだ声に続いて、男女入り乱れた大歓声が爆発し、この広い体育館を震わせている。  ここは別に5万人を収容できるような大型ライブハウスでもなければ、歓声の先に立つのもトップアイドルでも、人気爆発中のアーティストでもない。  それどころか学園祭のライブですらない。まぁ、場所が学校の体育館であるのは間違いないのだが。  約2000人の全校生徒の歓声を一身に受けているのは、熱狂する観客たちと同じように、学校指定の制服に身を包んだ一人の女子生徒。  その少女は『シート』と呼ばれる観客席スペースの“手すり”に立っている。  熱狂する生徒たちを悠然と見下ろす姿は自信に満ちていて、片目を瞑って見れば、怪しげな宗教のカリスマ指導者のように見えないこともない。  そんな彼女は、何やらよくわからない布をマントのように羽織って、意味もなくファッサ、ファッサと翻して見せている。 「今から家庭科部謹製のこの“朝の翼”で逆側まで飛んで行きます」  翼だったらしい。  そして翼のネーミングはおそらく、材質が麻だからというのと、持ち前の中二病から生まれた産物だろう。  ガヤガヤと騒々しい生徒たちも彼女が口を開いた瞬間にピタリと口を閉じ、静かに次の言葉を待つ。  それは片目さえ・・・・・・両耳も一緒に押さえておけば威厳に満ち溢れ、笑い出しそうなほどにすがすがしい姿ではあったのだが・・・・・・ 「成功したら一人一個ずつ飴をください。良いですか?」 『うぉおおおおおおおっ!!』  その姿と言っている内容・・・・・・というか存在そのものがあまりにも幼すぎるせいで、この場で正気を保っている“僕ら”はすっかり呆れてしまっていた。
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