プロローグ

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   少し離れたところでは音さんが部長の大論説を聞かされて目が虚ろになっていたが、たぶん僕もこれからそれ以上に虚ろな目になるだろう。  だからあまり同情は出来ない。むしろ同情してほしいくらいだ。そして出来たら代わってほしい。 「果てしなく憂鬱です」 「頑張るです。ただ『後ろからギュッと抱き締める』だけです」  ・・・・・・そう、それが一番の問題なのだ。  確かに僕らが所属する“事故部”・・・・・・もとい“自己部”の最優先業務は、『副部長のお目付け役』だ。  メンバーは全員、彼女の“ほんの少し変わった力”に対して免疫を持つ人間。  そして、通常はその力の影響を受けた人たちを元に戻すために『ツッコミ』や訂正を続けなければならないのだが・・・・・・ 「律都くんが抱き締めるだけで“全員が元に戻る”のですから。頑張ってくださいです」  何故か僕だけはその方法が変わっていて、副部長を抱き締めなければならないのだ。  力の影響を受けた人を一人一人探し出して元に戻すよりも圧倒的に早く、なおかつ一度で全てをリセット出来るのだから、端から見ればこれが一番良い方法に見えるだろう。  ただ、それをしなければならなくなる場合は、そのほとんどが今のような状態。  つまりは、大観衆の目の前で抱き締める必要が出てきてしまうということで・・・・・・  付き合ってもいない男女がみだりに抱き合うなんて、根本的に間違っていると思う。  いや、付き合うにしても節度ある距離を取るべきであるはずなのに、そんなことすら無視しろなど・・・・・・感性以前にモラルを疑う。 「抱き締めるという形が一番の問題なんですよね・・・・・・」 「私は律都くんの頭の固さの方がよっぽど問題だと思うです」
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