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次の日、学校に行く前に桃香はちょっとだけパソコンを開いて、『被験者』を観察してみた。
鏡の前でネクタイを締めている画像が映った。
「お~、スーツ姿もカッコいいじゃん」
男は机の上のコーヒーを一口飲み、最後に黒ぶち眼鏡をかけた。
「え?
せっかくイケてんのに、なんでダサくすんの?」
『やべ、遅刻』
彼がぼそっとつぶやき、部屋を出て行った。
初めて彼がしゃべった声を聞いた。
「『やべ、遅刻』だって。
ぶふっ」
「桃香~、遅れるわよ~!」
一階から母親の声が響いた。
「やべ、遅刻!」
桃香は彼の真似をしながら、パソコンを閉じ、階段を駆け降りていった。
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