二章

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今日も店内はいつもと変わらず、グラスの当たる音、女の笑い声、シャンパンコールに溢れていた。 きらびやかな世界の中で、本当と嘘が入り交じった世界。 「ねぇねぇ、シンはさー。いつまで咲夜にナンバー1の席を譲ってるの?」 酒の勢いも手伝ってか、甘えた声で体を俺に預けながら唐突に答えにくい事を言い出すお客。 その格好は昼間だったら歩いてるだけで男はみんな振り向くだろう。 だけどここでは、この世界ではそれすらも当たり前。 質問の内容に、無駄に体を押し付けられた事に。 その両方に対して一瞬顔をしかめてしまったが、幸い気付かれてはいないようだ。 「シンさんお借りしまーす」 俺が返答に困り曖昧に対応していると、内勤から指名のお呼びがかかった。 「ごめん。ちょっと行かなくちゃだ。すぐ戻って来るからね」 そう言って立ち上がり、髪の毛を崩さないように優しく頭を撫でてやる。 酔っ払ってる状態でもそうされることが嬉しいのか、猫のように目を瞑り、されるがままになっている。 「えー、早くだよー?ちゃんと戻ってくるまで待ってるからね」 頭を撫でられ満更でもないのか、渋りながらも顔はには笑顔を浮かべている。 名残惜しそうな顔を見せながら、その場をヘルプに任せ後にした。 正直、助かった。 いつもはうるさい内勤のおっさん……、もとい先輩方だが、初めて内勤がいてありがたいと思えた。 キャバクラならボーイなのに何で内勤って言うんだろうな? 「いい所で呼びに来てくれました。ありがとうございます」 いきなり俺にそう言われたので、渋い顔をぽかんとした。 「何だ、また何か無理難題でも吹っかけられたんか?相変わらずお前はひょうひょうとかわすねぇ 直ぐに顔を引き締めて、だけど小さな笑みを浮かべからかいながらも次の席へと案内してくれた。 その顔と問答が滑稽で、俺も笑いながら次の席へと着いた。 自然に笑いながら仕事が出来る。 今の俺にはそれだけで十分だ。
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