序章

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俺の事なのに、何でそんな顔してんだよ。 そんな明をそのままにしておくことも出来ず、これもまた毎日同じような言葉を明に返す。 「おう、ありがとな。別に俺はあの人の事、何とも思ってないんだけどな」 それは自分の口から出た本音だった。 別に余裕がある訳じゃない。 余裕持っていれるほどこの世界は甘くないし、今までやってきたのも楽じゃなかった。 ただ俺は、誰かと競ったり争ったりなんて面倒事が御免なだけだ。 「くーっ、痺れますねー。今の台詞!男の余裕!シンさんならいつか絶対ナンバー1になってギャフンと言わせられますよ」 おいおい……。 ギャフンっていつの時代だよ。 リアルタイムでそんな言葉初めて聞いたわ。 心の中でそう突っ込んではみたが、口に出すのは辞めておいた。 それが明の不器用な優しさなんだと、骨身に染みて理解しているから。 さっきまで暗い顔してたのにもう笑ってるその顔に、水を刺すのは野暮だと思ったから。 いつの間にかこの店はナンバー1の咲夜とナンバー2の俺とで、いわゆる派閥が出来ている。 ドラマの世界じゃあるまいし、俺としてはそんなのただただ面倒くさいだけなんだけど。 明みたいにただ純粋に俺を信じてくれる奴等がいるから無責任にそうとも言えず。 はぁ。 何故か一人で盛り上がっている明を横目に、ふと溜め息が出た。 「まぁ、とりあえず今日も頑張るか」 「はい!」 俺からしたら気だるそうにそう言うと、眩しい程の笑顔、と言う表現がぴったりな表情で返事が返って来た。 夜はまだ始まったばかりだ。
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