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一人暮らしでよかった、なんて。
マンションのエレベーターのなかで思う。
――クリスマス・イブの夜に、ホテルの空室を探すほどムダに去る時間はない。
竜也の言葉をかりるなら、『こんな夜に』だ。
何かを話すわけでもなく、黙ったままで竜也はついて来た。
お互いの素性なら知らなくてもいい、といった雰囲気だった―――
薄暗い部屋に入った途端、どちらからともなくキスをした。
キスの相性は、悪くない
それなら、ベッドのソレも良さそうだ。
今までの経験上、そうだった。
「…‥んっ……ふ、っ」
鼻にかかった甘い声を、先ほど自分を誘惑した唇から竜也がこぼす。
トン、と緩やかな抵抗を胸に感じて、そこに押し合てられた竜也の手に、自分のそれを重ねた。
「‥っはぁ、激しい、よ…」
途切れる呼吸が、ひどく煽情的だ。
唾液に濡れた唇が、朱い。
竜也の手を握りしめて、静かに、またその唇を奪う。
軽く一度押し合ててから、次には深く絡ませる。
何度も角度を変えて、お互いの舌を吸い合った。
腿にあたる竜也の欲情を感じたとき、離れた唇から刹那な声が洩れる。
「こんなところで…する気?」
「…しないよ。ベッドの前の、味見」
竜也の指が、俺の唇をなぞる。
「…ふぅん。で、この口に合いそうなの?」
まるで、聞くまでもないといった艶やかな瞳。
唇をなぞる竜也の指を口に含んで、舌先で吸い上げた。
愛撫を彷彿させるかのように――…
「‥…極上だよ」
その答えに満足そうに目を細めて、竜也は微笑む。
俺の口内から竜也はゆっくりと指先を抜き出すと、そのまま首に手を廻した。
それを合図に、竜也を抱き上げる。
「退屈させる気ないからね……」
そう言って語尾でくすりと自嘲気味にわらった声を聞いたとき、
長い夜が、始まった。
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