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コウキは黙ったまま、俺の話しを聞いていた。
普段、滅多にこんな話しをしなかったからか。
相槌を打つでもなく、ただじっと、俺の目を見て、ひとつの言葉も取り零さないようにと耳を傾けてくれた。
「なんか。俺ってダメな奴だなあ…って。」
思いの外、重たい空気になってしまったから、それを払拭するみたいにちょっとだけ、笑って言った。
「ダメなこと、ねえよ。カメは全然、ダメじゃねえ。」
そう言ってくれたコウキの目が。
真剣な眼差しに隠した淋しさのような色が、何を表していたのかを俺は知らなかった。
――カメにそこまで想われる女は幸せじゃねえか。見返してやりゃあいいんだよ。
強気な発言も、どこか頼りなげな表情に掻き消されそうだったけど、そうだね って、頷いた。
地下鉄で帰るコウキと分かれて、バス停までの道のりをひとり歩く。
思い巡らすことは、過去の代償。
ある日、忽然と姿を消した彼のこと。
――竜也。
初めて、本気で好きになったひと。
初めて、クリスマスを一緒に過ごしたひと。
中学生のころ、自分は女の子を好きになれないんだと知った。
思春期は苦痛でしかなかった。
誰かを好きになったとしても言えない気持ち。
伝えられない想いはいつだって押し殺すしかなかった。
永遠に片思い。
だけど相手は自分ではない他の誰かと幸せを見つけていくんだ。女の子と。
自分の気持ちを飲み込んでは、吐き出すのは偽りの祝福で。
やっと、見つけたって。
思ったときには失くしてた。
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