1358人が本棚に入れています
本棚に追加
「……あっ。」
バス停に着く手前で、明日の朝ごはんがなかったことを思い出して、近くにコンビニがあるか見回した。
ひとつ奥の通り沿いにたしかあったな、とそこに足を進める。
駅近くのこの場所も、大通りを一つ逸れると、途端に暗がりになるからあまり好きじゃない。
コンビニで手早く買い物を済ませると、大通りに出ようと足早に歩きだした。
「――――っ!!?」
手にしていたコンビニの袋が無機質な音を立てて、揺れた。
後ろから誰かにその手を掴まれた。
恐怖感に苛まれながらも、勢いよく振り返った視線の先。
――絶対に、会わない。
「……なん、で…」
誓いなんて、きっとささやかな抵抗でしかなかった。
こんなに強い引力に、敵う筈がない。
「行こうか」
そう言って、無表情なそれに片側の口角だけを上げて。
目の前の男は掴んだ俺の手を引いた。
――なんで。
なんで、こいつがここにいるんだよ!?
意味わか…
「なんでここにいんのか。
いち、たまったま俺がここに居合わせた。
に、実はきのうからずっと後付けてた。ストーカー行為に励んでた。
さん、誰かさんに教えたバーはこの近くで、ずっと待ってた帰りだった。」
さあ、どれだって。振り向く整い過ぎる顔。
「……さ、ん。」
捉えられた眼差しも、掴まれたままの腕も。
振りほどくことなら出来た筈なのに。
「せーかい。かめ、ひでーよなあ。俺、きのう結構待ってたんだけど」
「…い、行くなんか一言も言ってないしっ‥お前が勝手にっ……」
「じん」
掴まれた腕に力が込められる。
その名前を呼べ、と無言の命令。
お願い なんてかわいい訴えなんて存在しない、この男には。
「…じん、が、勝手に言ってただけだ」
「会いたくなかった?」
.
最初のコメントを投稿しよう!