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核心に迫る、囁かれた勝手な台詞は一言で返した。
そのくせ、腕まで振りほどける潔よさのない自分が嫌になる。
「何飲む?」
バーカウンターにふたり並んで、赤西がドリンクリストを寄越しながら聞いてきた。
薄暗い店内のブルーの照明が、赤西の顔に綺麗な陰影を造る。
「どうしよっかな…」
赤西の方をなるべく直視しないようにリストに視線を落とした。
この距離感を、変に意識してしまいそうだった。
ええと…。
ビール。
ならさっき飲んだし、焼酎…も、気分じゃないな。
ワインなんか、いま飲んだら酔いそうだ。
「リキュール。けっこうオススメなんだけど、あ、嫌いじゃなければ。」
「‥嫌いじゃ、ない」
じゃあ、とバーテンにオーダーをする赤西。
カウンターに組んだ両手を乗せる姿すら様になってるのが、なんか悔しい。
”メラーナ・モカ・エーデル”
赤西がオススメだと、オーダーしたリキュール。
「…コーヒー?」
一口飲んで、酒のセンスも悪くないのかよ、と舌打ちしたい気分になる。
「なんか、モカ・コーヒーがベースらしいよ。ドイツ生産のなんとかっつって…かめっぽくない?
ドイツとか、フランスとか(笑)」
「なんでドイツとフランス一緒のイメージで纏めてんだよ」
「何となく?」
そう言って笑う顔は、昨夜の人物とは別人なんじゃないかって、本気で俺に思わせた。
思わず見とれてしまう容姿が惑わせるんだ。
レイヤーの入った、毛先が肩につきそうなくらいの長めのアッシュ系の髪。
首元と腕に光るアクセが嫌みじゃなく、似合ってる。
髪型や、身につけてるモノの派手さとは対象的なポーカーフェイス。
それなのに、笑うと幼くなる表情。
どれもが俺を掻き乱す。
赤西は、本当に取り留めもない話しばかりをした。
休みの日は何をしてるとか、いつもどこで飲んでるとか。
――だから、昨日のことは悪ふざけだったんじゃないかって、思ってる自分がいて。
都合のいい解釈をした。
「ねえ、トイレどこ」
夢中になって話し込んで、気付けば午前1時。
ヤバイと思って、酔い醒ましにトイレに席を立とうとした足はフラついた。
「かぁめ、危っない。トイレこっち、ほら。」
「‥ん、悪り。」
何の疑いもなく、支えられた身体をその腕のなかに預けた。
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