scene3 最悪な1日の終わりと始まり

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「アンタ、大丈夫?」 気がつくと姉が、俺を真上から見下ろしていた。 「すっごい汗。めちゃくちゃ、うなされてたよ」 いや、ちょっと悪い夢を見た、と俺は誤魔化した。 「あっそう。ならいいや。病気かなと思って心配したよ。まだ挨拶してなかったから、ちょっと寄ってみただけ。寝てたんなら悪かったね。あ、でもあたしのおかげで悪夢が覚めたからいいか」 姉は去年、俺と同じ高校を卒業し、今では、東京の大学に通っていた。何でも、流行り風邪で学校がしばらく休校になったらしく、金の無心もあり、一昨日から帰省していた。だが、毎晩の飲み会で、ほとんど家におらす、顔を合わせるのはこれがはじめてだった。お気楽な性格で、衝突することも多かったが、このときばかりは、心から感謝した。 「じゃあ、勉強がんばれ、受験生」と言って姉は部屋を出ていった。 それからは、一睡もする気になれなかった。身体の節々が痛み、少し痺れているようだった。それがようやく治まったときには、もう明け方だった。霊など見えない方がいい。自分の体質が、恨めしかった。 朝日が射す頃、ジョギングにでかけた。朝の風は心地よかった。風を感じて走るのは、爽快だった。 新しい1日が始まるのだ。今日は、何事もない1日であって欲しい。
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