scene4 約束

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俺は何も言わずに由美の肩を抱いていた。由美は、両手で顔を覆い、肩を震わせ泣いていた。生憎俺は、このような状況に慣れていなかった。どうしてよいか正直わからなかった。肩を抱いて横にいることが正解なのか、半信半疑のまま硬直していた。 幸いなことに、普段なら人で賑わうこの昼休みの渡り廊下も、今日は閑散としていた。時々、生徒が通ったが、ちらっと見るだけで何も言わずに、そそくさと通り過ぎるだけだった。野次を飛ばす元気のある者など一人もいなかった。それほどまでに事件の衝撃は学校全体を疲弊させていた。 蛇が殺されて3日が経過していた。学校は臨時休校となっていたが、ようやく今日から再開された。 落ち着きを取り戻した由美が口を開いた。 「ありがとう」 その言葉はなぜだか俺を狼狽させた。返答に窮した俺は、何も言わずに肩の手を離した。俺は何かを言うべきだと思ったが、その何かが思い当たらなかった。そんな俺を察したのか、由美は自分の方から話を切り出した。 「もう大丈夫。ちょっと気持ちが不安定になっちゃって。だってこんなに立て続けにとは思っていなかったものだから」 その通りだ、と俺は思った。杉本百合が殺されて、まだ2週間も経っていない。今回の蛇の殺害は誰もが予期していないことだった。
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