scene0 終わり

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この一連の殺人は、全て私一人によって計画され、そして実行された。従って、この殺人により生ずる諸々の損害の責任は、全て私一人に帰属するものであり、私を除く誰一人として責任を問われ、または、罰される必要はない。 そもそも殺人を犯そうとする意志と殺人を犯したという事実との間には何の連関もないのであって、殺人を犯そうとする意志の前には確固たる理由が存在するのであろうが、殺人を犯したという事実から遡及して、そこに何らかの原因を探ろうとしても、それは無駄であろう。事実は事実であり、そこに理由づけを行ったとして、幸福を感じる人間などどこにもいない。 だが、恐らく世間の愚鈍な人間たちには、私が上に述べた真理を理解してくれることなど少しも期待できないから、そのような低能者をいささかでも納得させるために、理由とでもいうべきものをここに記しておく。 私が殺人を犯した理由、それは愛である。純粋な愛ゆえに、そしてその愛を貫徹するために私はこの殺人を行った。それ以外に理由はない。もしも、警察の捜査で被害者に対する憎しみや悪意が発見されたとしても、それは警察により意図的につくられた偽りの感情でしかない。私は無感情に殺人を行ったのである。 私は愛ゆえに殺人を行った。私は、次のことを嘆願する。私を起訴する法的人物乃至法的機関は、私が愛ゆえに殺人を立案し、そしてそれを実行したということを、後世に残るであろう文書に記録しておいてもらいたい。それは、私の犯罪が、例えば、金欲しさに盗みをはたらいたとか、あるいは、自己顕示のために行きずりの人間を殺害したとかいう醜悪で不粋なつまらない類の犯罪と同列においてもらいたくないからである。 私はただ愛のために人を殺した。崇高で純粋な愛のために・・・。 (容疑者のものと思われる文書からの抜粋)
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