六畳半夏風鶏伝

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   真っ白い入道雲が合図代わりのフラッグとでも言わんばかりに突き上がる。 平年よりも少しだけ長く感じた梅雨の季節が終わりを迎えると、まるでバトンタッチをするかのように夏の賑わいとともに爽快な暑さがすぐそこまでやって来ていた。 七年もの時を土の中ですごしていた蝉たちは、『待ってました』と言わんばかりに四方八方から一斉に鳴き交わう。 僕らの見る世界は溢れ出す緑で生い茂り ゆらゆらと蜃気楼が歪ませてる地平線を渇いた土の匂いが漂い。人々の鼻をくすぐらせている。 露に浸る朝顔    真っ直ぐに育ち平野を染める向日葵        絶えず騒ぐ蝉時雨 夕闇に紛れる祭り囃   子供達の笑い声が田んぼ道を駆け抜け      心臓にまで響いてくる打ち上げ花火 色も音も匂いも肌で感じる熱さでさえ。 そう……夏休みだけのもの。
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