黄色いリュックの男の子

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  私は、元にいた席に男の子と戻った。 この子の温もりから離れたくなかった。 この子も、そうに違いなく私にしがみついていた。 席に着き、しばらくボーっとしていたが、この小さな子が一人で夜行バスに乗っているのが不思議に思えた。 「ねえ?僕?一人なん?お母さんかお父さんは?」 「僕、一人やねん」 「一人でどこ行くの?」 「お家に帰るねん。」 「じゃ、おばあちゃんのお家にいままでいてたん?」 と、聞くと、クリクリとした目を広げて 「そう!ママに会えるんや!ママとは電話しか喋られへんかってん。」 「えっ?どういうこと?」 「うん・・・おばちゃん、結核って知ってる?」 「まぁ・・・病気としかわからんけど・・・」 「そうやねん・・ママ・・・僕が小学校になる前にその病気になってしもてん。うつるからゆうて、おばあちゃんの所に居ててん。でもな、治ってんて、又一緒に暮らせるんや!ええやろ!」 「今、何年生?」 「今年三年になるねん。東京では、東京の言葉喋ってたんやけど、ママとな、大阪弁しゃべる練習いっぱいしててん。大阪に戻った時、皆に早く慣れんといかんやろって僕、上手やろ?大阪弁!」 少し、得意げな幼い顔に、私は涙が出そうになった。 「ほんま!上手やわ。ママに会えるとええな。」 「ほんまに・・・こんな所に居たないねん。早よ帰りたい・・・ママに会いたい・・・」 丸々三年も会えなかった母親に、この子はこんなに会いたがっている。 小学校に上がる時の典子は、私にしがみついて学校に行きたがらなかったものだ。 子供心に不安である小学校生活を、母親が傍に居ないという事は、考えられない事だった。 しかし、この子は母親の病気を、ちゃんと把握して我慢して来たのだろう。 この小さな身体で、頭で、寂しくても、 『いつかは帰れる。』という希望を胸に、生きて来たに違いなかった。 私は、知らない間に、この子の身体をぎゅっと抱きしめていたらしく、 「おばちゃん?苦しい・・・」 と、言われて慌てて手を緩めた。
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