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「あの・・上手く言えないんですが・・お婆さんはもう死んでいるんですよね。」
自分でも唐突な言い方に、ドキドキしてしまったが、お婆さんは、別に嫌な顔をするわけでもなく、相変わらずにこにこしながら、
「そうみたいですね。」
余りにも簡単に受け入れてくれた事に、私は疑問である事を一気に聞いた。
「どうして?このバスは存在してるのですか?私達は、死んではいないと思うんです。他の人達はどうして、私達と話せないのでしょう?」
お婆さんは、困った顔をして、首を傾げた。
「さあ・・・私にもよく解からないんですよ。毎日、毎日、同じ時刻を、どうやらグルグル回って、バスが落ちると元の東京のバス乗り場に、着いちゃうんですよね。私は、早くあの世とやらに行きたいんですけどね。」
「あの事故からずっと、このバスの中にいるんですか?」
「そうなのよね。久しぶりに、声を掛けられて少し嬉しかったんですよ。」
私は、こののんびりとしたお婆さんが不思議に思えた。
他の乗客は、多分あの事故の際での恐怖の中で止まっているように見えたからだ。
まるで時が止まっているようなのだ。
だから、バスの中では、私とお婆さんの声だけが響いていた。
「どうして?お婆さんとだけ話が出来るんですか?」
と、聞き返すとお婆さんは、ゆっくり首を傾げ、少し考えてから話し出した。
「そうねぇ・・・私は死ぬのが怖くなかったからかしら?」
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