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メールの着信音がなった。
「あの人からだわ。」
美弥子は、携帯を手に取ると受信ボックスを開けた。
『夜行バスにて帰る。到着は朝八時。』
今夜帰って来ると思い、買い物は済ませていた美弥子は、
「今夜は、又一人で食事ね。」
一人では何も作る気がしない。
冷蔵庫を開け黒田の好きな、刺身をチルド室に入れ直した。
煮炊き物はもう作ってあったが、
「明日でも食べられるから・・・」
荒熱が冷めているのを確かめると、ラップして冷蔵庫にしまった。
美弥子は、一人での食事がたまらなく寂しく感じていた。
料理は嫌いではないが、自分の為だけに作る気がしなかった。
炊飯のセット時間も明日の朝に切り替えた。
一人では食べきれないと考えたからだ。
仕方ないので食パンをトースターに入れカップスープを作くる。
ベーコンを二枚、卵を一つ焼きレタスを盛った。
「まるで、朝ご飯だわ。」
黒田は、初めて美弥子の手料理を食べてくれた時、本当に美味しそうに食べてくれた。
そして、美弥子にとってはこの上ない幸せを感じたのだ。
プロポーズの時に、
「君の作った料理を一生食べたい。」
と、黒田が言ってくれた事は、一生忘れないだろう。
初めて自分自身を認めてもらえたとそう、思えたからだ。
いや、自分を必要としてくれる人が、この世に居てくれるという喜びだったのかもしれない。
美弥子は、この人が喜ぶものを一杯作ってあげたいと、心からそう思った。
生き甲斐、というものに初めて遭遇した気分だった。
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