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私は空いている席を見つけようと、少し背伸びをして中を見渡したが、ボストンバッグが邪魔で、上手く歩き回れない。
本当は、バスに付いている荷物を入れる所に入れなければならないのだろう。
しかし、もう発車時間だったし、車掌は運転席についていたので預ける事ができなかったのだ。
入り口は、バスの真中にある。
私は、その入り口に一番近いお婆さんの所にいた。
お婆さんの座席の背もたれ部分を、発車してしまったバスの揺れでこけないように、手で支えながらバスの前を見た。
満席に近かったが、一つ二つの席は空いているようだ。
お婆さんと話しているうちに座ったのだろう。
さっきの黄色いリュックサックを背負った男の子の姿が見えた。
次に後ろに目をやると、最後尾の一列に並んだ席は、満席だった。
その一つ前に私と同じく乗り込んだサラリーマンが座っているのが見える。
もう寝る体勢に入っている様子だ。
ちょうど自分の背中で気が付かなかったが完全に振り向いた時、入り口の後ろの席が空いているのに気が付くと、お婆さんに会釈し、ボストンバッグを押しながら、そこに座った。
ボストンバッグは大きすぎて上に上げる事が出来ない。
仕方ないのでストッパーを止めると通路に置く事にする。
後でトイレ休憩の時に車掌さんに荷物置に入れてもらえばいい事だと自分に言い聞かせて納得した。
私は、ボストンバックから飲みかけのお茶を出すとゴクリゴクリと飲み干した。
喉がへばりつくようだったのだ。
一気に飲み終えると、ドッと汗が噴き出した。
ハンカチで汗を拭うと、溜息を一つついた。
やっとホッとした気分になった。
窓に目をやると高速道路の電灯が幾つも幾つも通り過ぎて行くのが目に映った。
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