別離

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俺が正気に戻ったのを確認したのか、七海のお父さんが歩み寄ってきて俺の横に座った。 「これでも飲んで落ち着きなさい。」 お父さんは俺にそう言ってコーヒーを手渡すとお礼を言わせる間もなく話し始めた。 「七海はね…小さいころからおっちょこちょいでね…。 目が離せなかった。 常に手を繋いでいた記憶ばかりある。 それ故に両親を大切にする子に育ってくれた。 今の会社に入って初任給で夫婦旅行をプレゼントしてくれたんだ。 あの時は夫婦で泣いて喜んだよ。何故か七海も泣いてたがね…ふふっ… いつしか紹介したい男の子がいるって言われた 男友達が何人かいたのは知ってたけど 紹介したいなんて言われたのは、後にも先にもアレが初めてだったよ。 それが浩介くん。 君なんだ。」 それを聞いた途端、再び涙が流れた。 「娘…七海は… 心の底から… 君を愛してた。 父親としてちょっと悔しいが、今日会って分かったよ。 七海が熱心に君を愛した理由が…」 「そんな事ないです… そんな事言われるような事…何一つ出来なかったですから…」 俺はそう言うとさらに泣いた。 「すまんなぁ… 浩介くん…君に…君に七海をもらってほしかったよ…」 そういうとお父さんも泣き始めた。 それは朝方まで続き、俺は会社を休んで、お通夜とお葬式を手伝った。 手伝いの時は泣いてる時間なんてなかったけど… やっぱり思い出しては泣き崩れてお父さんに支えられた。 七海はもういないんだ… 七海はもう… そう考えただけで胸が痛く苦しくなった… 七海… いまなら恥ずかしがらずに素直に言えるんだ。 ありがとう。 愛してるよ。
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