もう一つの別離

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「献杯。」 俺と豊は辻に献杯をして日本酒をグイッと飲み干した。 「浩介…さっきの続きだけどよぉ、辻は悲しいと思うぜ? お前の口からそんな言葉聞いたらよ。」 豊はそう言うと俺をギロリとにらむようにして続けた。 「辻自身、お前や俺に心配かけたくなかったんだよ。 現に俺らは全く借金の話を知らなかったし。 あいつは、きっと俺らに余計な心配かけたくなかったんだな…。」 豊は、そう言うとグラスに日本酒を注ぎ、再びグイッと飲み干した。 俺は豊の言葉を聞いた後でも、辻を助けてやれなかった後悔はぬぐえないでいた。 それから数時間、俺と豊は語らった。 辻との思い出話がメインだったが、豊は俺を元気づける為か、明るく気丈に振る舞っていた。 「お前は強いな。」 俺は、そんな豊を見てふとこぼした。 「なんで?」 不思議そうに豊は俺を見た。 「友が亡くなったのに、明るく気丈に振る舞える…あ、もちろんいい意味でだけど。」 俺はそう言うと、グラスに注がれた日本酒をクッと飲んだ。 「決していい意味には聞こえないけど…(笑) こういう時こそ明るくして、友人を送ってやるのが一番だと俺は思うからな。 送り出されるのに大切な友人が湿っぽい顔してても嫌だろ?」 豊はそういうと俺を見て続けた 「どっかの誰かさんみたいにな(笑)」 俺のことだ。 確かにそうかもしれない…でも辻には悪いが、明るくなんて絶対に無理だった。 打たれ弱い俺がそこにはいた。
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