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プロローグ 誕生
「双子ですね、おめでとうございます」
ここは住んでいる団地からほど近い個人病院の産婦人科の診察室――
院長先生はやさしく告げた。
私の父(24歳)、母(30歳)が結婚して一年。待望の子供である。初孫というこことで、父母の両親はじめ、親戚の期待も集めた。また双子と診断されたので、母は母胎の安静につとめていた。
◆
父の実家では、その前後に不思議な出来事が起こっていた。家の玄関に、白蛇が突如、にゅるりとあらわれたのだ。
「白蛇とは珍しい」
「何かいいことの起こる前触れかも…」
そんなことを居合わせた人々がぼんやり考えて、どこかへ逃がそうとしていた矢先、明治生まれの父の祖母がやってきて、
「きえええええ!!」
奇声を発して、白蛇の首をつかむや握りつぶして殺してしまったのだ。
誰もが息をのんだ。白蛇の無残な死体を前に、
「瑞兆が…」
「そこまでしなくても…」
なんとなくいやな出来事であったが、もちろん私が産まれるころには、誰もがそんな出来事を気にもとめていなかったし、忘れていただろう。
しかしそれからまもなく、そんないやな出来事は私のこれからの波乱万丈の人生を暗示するかのように、「ヘビ」年の夏の暑い日の午後、私は産声をあげた…
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