そしてトビラを。

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インコらしく、ぶっきらぼうなメールだ。インコ弟のほうがまだ絵文字たっぷりで可愛い文面だろう。 でも、彼女らしくてホッとする。 最後のメールを見ていると、唐津が話しかけてくる。 「そうそう、アラクネ堂さあ、今度テレビ出るんだってさ。 『新ビジネスを追う!』ってやつ。すげーよな、今やネット古書販売ナンバーワンだもんな。 駅前のあのボロ実店舗、なんか工事始まってたし、建て替えるのかな?儲かってるんだろーなあ」 「へえ」 「へえ、って、お前…… 悔しくないのかよ~、お前も古書を扱う者のはしくれだろ? ってか、お前最近出品してる?」 「ああ。少しずつ出品してるよ。 これからもセドリは続けるつもりだよ。 本を必要としている人に届けるのが、楽しくなったから。 ただ……本格的にやるなら古物商認可だの、ネット販売のノウハウを学んだり、必要になることも課題も山ほどある。 だからぼちぼち、かな。」 学生食堂のテレビには、唐津の言う番組のCMが流れていた。 画面の中で微笑む国春の目は、前のように優しい光が宿っている。 その膝の上には、ボロ雑巾が丸まっていた。 いや、猫。フノカミだ。 あれ以来、フノカミは家に来なくなった。 いなくなると寂しくなるとか、感傷的になるものだろうけど、陸はそうでもなかった。 国春さんのところに戻った。それならば、それでいい。 もともと、アイツは国春さんのために家を出たのだと思う。 自分がそばにいて、富のチカラを与えすぎたから国春さんの心が落ちた。 そう考えて、少し離れたのだろう。
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