163人が本棚に入れています
本棚に追加
/226ページ
本を手にとってみた。
小さな文庫本。うっすら黄ばんで見えるのは、日焼けのせいだろう。
こんなのが、コレクターにとってはお宝なのか。
わからん。自分には理解できない……。
「ささ、早く精算を。
次に行く所がある」
フノカミの声に我に返る。
「そうだな、会計…いてっ」
いつの間にか足元には買い物カゴが置かれていた。
そうとは気付かず歩きだした為、思いきり足をぶつけてしまった。
カゴの主だろう。
横に立っていた男がジロリと陸を睨んだ。
「あ…スミマセン!カゴ、ぶつけてしまって」
「…いや、構わないけどさ。さっきからニャアニャア聞こえてるよ。
店の人に怒られるよ?」
そう言ってデイバッグを指差した。
猫の持ち込み、バレてる。
…ていうか。この人にはフノカミの声が、猫の鳴き声にしか聞こえないのか。
「そうじゃろう。
貧乏神に選ばれし者だけが、ワシの声を解せるのじゃよ」
フノカミが高らかに笑った。
「あーもう、静かにしてくれ!
あ、あの、本当にごめんなさい!」
男に頭を下げて逃げるようにレジに向かう。
男は気にする様子もなく、ひたすら携帯電話を見つめていた。
手に取った本を携帯と見比べては、棚に戻し、あるいはカゴに放り込んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!