そしてトビラを。

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陸はただ、黙ってうなずいた。 ――――そんなやりとりを思い返し、残りのコーヒー牛乳を一気に啜る。思ったより量がなくて、空気を吸い、むせてしまう。 「大丈夫かよ、きたねーなあ… さっきからケータイ鳴ってるぞ。母ちゃんか?」 かすかな震動に、あわてて携帯を取り出すとメール着信だった。立て続けに三件、入ったようだ。 『評価がありました/モバオク 先ほど受け取りました☆欲しかった本なので嬉しいです!丁寧な取り引き、ありがとうございました!』 いつも通り、本の落札者からだ。 すぐにこちらからも評価を入れる。 …こちらこそ、お取引ありがとう。無事お届けできて、喜んで頂いて、嬉しいです…… 以前のように無機質でなく、心のままに指が動く。 きちんと対応したから良い評価は当然、などと不遜な気持ちはいつしか無くなっていた。 ―――お金をもらうだけの仕事を、あたしはしているだけよ。 いつだったか聞いた、インコの言葉が耳によみがえってくる。 二件目を開くと『ありがとう☆』とタイトルがあった。インコからだ。 『先日は弟がお世話になりました~ いろいろお騒がせして、ごめんね。みっともないとこも見られたし。 あの後、弟を連れて学校に行き、なんとか退学届を撤回しました~ 先生も皆理解して下さったんです。 “家計を心配して退学を考えたんだろう、でもそれで家族に心配かけては本末転倒”って、みっちり絞られてたよ。 ともあれ、馬鹿弟にもうしばらく手間がかかるけど何とかなりそうです。ありがとね』
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