捨てる神、拾う神

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「…せっかくですけど。僕、自分で迎えに行きますから」 電話にそう答えると、印南の顔がたちまち般若と化していく。 「あんたねっ…」 また何か言われる。陸は思わず身構えた。 「待ってください」 鳳が立ち上がった。静かだけど、よく通る声だ。 印南までもが黙ってしまった。 「瀬鳥さん、あなたは目の前に困っている人がいたら…バカにしますか?指をさして笑いますか?」 一瞬、パン屋の重たい扉を開ける老人…いやフノカミだったんだが……の事が頭をよぎった。 「“人の手を借りるのはダメな事だ”と思うなら、 困っている人をバカにしても仕方ないですよね。 でも、それは間違った行為だと思うなら…… まわりの助けを借りる事を、否定しないでくれますよね?」 返答に詰まる陸に、鳳は畳み掛けてきた。 「それにね、私は助けてやろうなんて思っている訳じゃないんです。 あくまで御礼です。 あなたが助けてくれたから、今度は私がお返しする。 プラマイゼロ。…それならいいでしょう?」 「…助けた?僕が?」 きょとんとする陸を見て、印南が口を挟んでくる。 「猫だって。オードリーさんちの迷い猫。 あんたが見つけて、連れて行ってたそうじゃない。で、店の前まで来て倒れた。 それでオードリーさんが救急車呼んでくれたのよ。 あと、落ちてたメモを見て保育園に電話も。」 「…メモ?」 鳳が笑みを浮かべ、紙切れを渡してきた。 『瀬鳥空、ことりヶ丘保育園ひよこ組、5時迎え』 そう書いてあったが、陸には覚えがないメモだった。 明らかに自分の字ではない。 これもヤツの仕業か。フノカミめ…。 鳳はもう一枚紙切れを取り出すと、語りはじめた。 「ずっと探していたんです、何ヶ月も帰ってこなくて。 おじいちゃん猫だけど、素ばしっこいヤツで、あなたが足止めしてくれなかったら捕まえられませんでしたよ。 一応はウチの店の招き猫なんで、あなたには本当に感謝してます。ほら」 そう言って、その紙切れも陸に渡した。チラシのようだった。 「探しています迷い猫… 謝礼……ごっ、ごまんえん?!」 そしてその下に貼られた猫の写真をみて、陸は息を呑んだ。 「…ふ…フノカミ!!」
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