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結衣の『それ』が終わった。
結衣は精魂尽きたのか、東次郎のキセルを奪い取り、横臥してぷいぷい煙を吸ったり吐いたりしている。
股の付け根まで見えそうなヒラヒラした布から、むっちりとした白い太股が無造作に床に投げられており、琥珀は視線と感情を一定に出来ない。
東次郎の方はというと、結衣が語ったその全てをゆっくりと咀嚼していた。
結衣の口語をまともに聞き取れるのは、この時代東次郎くらいであった。
(坂本さんってのはドラゴンボールの悟空みたいなキャラっぽい感じね)
東次郎はドラゴンボールを知っている。とは言え、結衣から聞かされただけである。
そして結衣はしばしばドラゴンボールや他の伽を比喩として物事を語る。
特筆すべきはその情報取捨選択能力と卓越した記憶力である。
結衣は東次郎と出会った時は文盲であったが、手ほどきをしてやると瞬く間に字を覚えた。字を覚えたかと東次郎が書を渡すと、結衣はさらさらと頁を捲り、驚くべき事にその書の一部始終を諳んじて見せたのである。
東次郎は別の書を与えてみたがこれも然り。結衣は早読みと抜群の記憶力を持っていた。
服装から異人と判断され、言葉も殆ど通じなかった結衣は、幕府から追われる身であったのだが、それを拾い上げたのが東次郎である。
「…悟空か」
結衣の語りから要点のみを抽出すれば、つまり坂本とやらは人を魅了する人物だ、とそういう感じである。
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