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そしてどれくらい経っただろうか、彼女はすでに泣くことも止め、今は彼の目の前に立っていた。
その顔は完全ではないものの幾らかは晴れているように見える。
「すまなかったな、背中が少し汚れたかもしれん」
「んにゃ、別に気にしてないよ」
そう言って本当に申し訳なさそうに謝る彼女の頬にはまだ涙のあとが残っていた。
「借りができたな……」
彼女は頬を掻きながら、いつか返さないと、と続けようとすると、それは途中でさえぎられてしまった。
「無料レンタル中だと言っただろ?」
そう、彼が笑いながらそんな言葉で遮ったのだった。
「しかし……それでは私の気が治まらない……!」
さすがにそんなことで納得できなかったのか、彼女は語尾を少し強めに言う。
そんな彼女の言葉に彼は少し考えるように──
「……なら笑っとけ。しかめっ面や、泣き顔よりはそっちのがあんたには似合いそうだし」
何の恥じらいも見せず、満面の笑みでそう言ってのけたのだった。
「うぅ…そ、そんな臭いことを真顔で言うやつがあるかバカもの」
言った本人より言われた方が恥ずかしくなってしまったようで、彼女は文句を言いつつも軽く頬を赤く染めていた。
そして、今まで泣いていたのにあたふたしているそんな自分が可笑しくなったのか──
「ぷっ…ははは」
吹き出しながら笑った。
「やっと笑ったな」
多分わざとだったのだろう、自分の言った臭いセリフで笑いを誘うことができたことで彼も上機嫌に笑っていた。
「……ありがとう」
「どういたしました」
一息つき、お互いにそんなことを言っていると、ふと冷たいものが空からゆっくりと振ってくるのがわかった。
それは白く、綺麗で、肌に触れるとすぐに消えた。
「「ん?……あ、雪だ」」
雪が降り始めた。
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