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「今日は寒かったから降るかもしれんとは思っていたがやはり降ったか」
舞落ちるように降る雪を見ながら感慨深げに彼女は言う。
その顔は、嫌悪というよりも良いものを見たというような顔だった。
「そうだな……あんた風邪ひかないように気をつけろよ?」
彼も同意するように返事をするとともに、さすがに雪が降り始めたことで冷え込んできたこともあり、彼女を気遣う。
しかし、そんな彼の気遣いに対して彼女は──
「……君がくれた缶コーヒーがある」
缶コーヒーを両手でつかみながら微笑み、そう返した。
そんなやりとりに二人でクスリと笑いながら二人は空から舞い落ちる雪をただ眺めていた。
「きれいだな……」
「……なぁ、あんた……雪の異称を知ってるか?」
雪を見ていてふと彼はなにか思いついたように、そう言って彼女に問う。
が、しかし、彼女はそんなものはしらなかったようで──
「……そんなものがあるのか?」
少し驚いたように聞き返してきた。
そんな驚き顔に満足したように彼は続ける。
「あぁ、雪はな、六花とも言うんだってよ。なんでかまでは知らないけどな~……雪の結晶とかかってるんじゃないか、ってのが、俺の予想だな。六つの花……奇麗だよな」
そう言って少しとぼけるように言うと、彼女もさほど理由までは気にしたふうでもなく、六花と言う名前を口づさみながら、ほんとだな……、と頬笑み返した。
そうやって微笑みあう二人に降り注ぐ雪はまるで二人に非凡という奇跡を与えたようであった。
「……コタツに入って蜜柑食いたくなってきた」
急に彼は何を思ったか、そんないい雰囲気を台無しにするような発言をしだした。
「な、なんだ、いきなり?」
そんな彼にさすがの彼女も呆気にとられ眉をピクピクさせながら引きつった笑いを浮かべていた。
そんな彼女に彼は真顔で淡々と言った。
「いや、シリアス過ぎたから……つい?」
どうしようもない理由を。
「……ぷっ、ははははは」
「おいおい、そんな笑うことは……ははははは」
雪が降る寒空の中で、二人は揃って笑いだした。
これが特殊な状況にも関わらず、まるで昔からの友達と騒いでいるかのように。
そして、ここから一人の青年の平凡の日常の中に、少しだけ……非凡が混じっていくことになるのだった……。
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