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『彼女の夕暮れ』
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空が動いていく。夏のけだるさを、新たにそそがれた秋風が押し流した。学校帰りの夕方。山向こうに一筋の煙があがっている。焚火かな、と思った自分の思考に苦笑しながらも、美代子に聞いてみる。
「何の煙かな。あの白い煙」
しばしの沈黙。夕焼けが彼女の顔を暗く染めている。並んで歩いていた二人の間を風が通り過ぎていった。私が不安になり始めた頃、美代子は突然いった。
「白い煙も黒さはあるし、逆もまたそう。みんな灰色、灰色だけの世界。ただ灰色の煙という表現は当たり前すぎるのかもね」
彼女は悩んでいたのかもしれなかった。彼女は昔、家を火事でなくしている。当時それを人から聞いたときは漠然とした感情しか抱けなかった。ただこの瞬間、私はそれを聞いて怒っていたのだろう。
「私はカラフルな煙をみてみたいわ。素敵じゃない」
私が精一杯の意地でいったその言葉を、彼女はただ微笑んで聞いていた。次の日、彼女は突然いなくなった。あの時初めて本音を聞けた気がしたのに。
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