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『月の破片』
―――――――
とある日の夕暮れ。少年の耳には、遠くで潮騒が聞こえていた。波打ち際に佇んでいるのは、ぼろ絹をまとった年端もゆかない少年。真っ赤に染まった海がだんだんその色を失っていく。
「海。すべてを包みこみ、遠いどこかへ押し流してくれる」
少年は虚ろな眼をして海に入っていく。誰もいない、止めない。世界は薄暗い中で停滞している。夜の闇引き込まれるような感覚が少年を支配していた。
一陣の風がふいに彼を包み込んだかと思うと、一瞬ざわざわと皮膚に鳥肌がたった。足をとめると海から一匹の海亀があがってくるのが見える。彼は黙ってその乱入者の様子を観察していた。
何かが起ころうとしていた。しばらくすると亀は白いものを砂浜に産み落とした。それはまるで月の破片のように輝いている。少年はあまりの美しさに息を呑むと、うめき声をあげた。ただただ立ち尽くしていた。その晩は月がきれいだった。
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