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『バス停にて』 ―――――――― 「蝉は本当は鳴かないんだよ」   気がつくと、じっとり絡みつくような太陽に照らされ、一人で路上に立っていた。手に持っていたアイスバーは溶け、地面に無惨に落ちている。頭の中で誰かの言葉がこだましている。頭に霞がかって、どこの誰に言われたのか思い出せない。ただ今日のような蒸し暑い、休みの午後に言われた気がした。その言葉を思い出すといつも疑問に思う。 「蝉は鳴かない?今だって鳴いてるじゃないか」 寂れたバス停前。まだ幼さが残る顔立ち、小柄な体にはリクルートスーツを着込み、流れるような汗をかいている。青年はぼんやりとした顔を慌てて引き締めた。
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