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そう言うと、ケイタはまた歩き出した。
あと五分も歩けば、家に到着する距離まで来ていた。
――今、言うしかない。
ケイタのジャージ姿の背中を見て、何故だか私はそう思った。胸の奥に仕舞いっぱなしだった想いは、今、この場所で、伝えなければならない――と。
「ケイタ!」
私は大声で名前を呼んだ。昔のように。
数歩先を歩いていたケイタは、「ん?」と笑顔で振り返った。その笑顔も、やはり昔の面影を残す。
「私……ケイタのことが、昔も今も、ずっと好きだ。嫌いになったことなんて、一度もなかったよ」
気付くのが遅すぎて、今更になったけど。やっぱりちゃんと、伝えたいんだ。
泣きそうになりながら無理やり笑顔を作ったけど、きっと逆光で、私の顔なんてよく見えてないんだろうな。
そんなことを考えていると、ケイタが私との間の数歩の距離を埋めた。
「俺も。アスカが大好きだよ」
ポンと頭をひとつ撫でられて、さあ帰ろうと促された。あまりにも、アッサリと。
――でも、あなたの好きと、私の好きは、別物なんだよ。
そのセリフは結局言えずに、私たちは笑顔で別れた。
でも、別れ際、今度こそ本当に、心からの「おめでとう」を伝えることが出来た。
そして、私の初恋も、今度こそ本当に、幕を閉じたのだった。
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