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「アスカの幼なじみ、彼女出来たんだってね」
そんな話を友達から聞いたのは、高校受験も一段落して、卒業式までのカウントダウンが始まった頃だった。
予感はしていた。
廊下やなんかで、たまにケイタがあの時の可愛らしい女の子と一緒にいる所を目撃していたから。
でも、実際にその事実を突き付けられると、胸の奥の、自分でもよく分からない部分が酷く痛んだ。理由はまるで分からないのに、酷く痛んだ。
その日の放課後、一緒に帰る友達を正門前で待っていると、偶然にケイタと出くわした。
ケイタは一人だった。
「あぁ、久しぶり」
私は笑顔を作った。ケイタも笑って「久しぶり」と言った。
「彼女出来たんだって? おめでとう」
それは、本当に久しぶりの、挨拶以外の会話だった。
「うん、ありがとう」
ケイタはまた笑って、急ぎの用事があるからと私の前から足早に立ち去って行った。
久しぶりに交わす会話は本当に呆気なく終了して、私には、ケイタの背中がもうまるで誰か別人の背中みたいに思えた。
すると、何だか急に悲しくなって、涙が止まらなくなって、私はその日、気付けば友達を置いて一人で帰ってしまっていた。
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