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彼女は笑って俺に言った。
《本当の私を知ったら私を嫌いになるよ》
寂しげな表情を浮かべる彼女に蓮は首を横に振り、否定した。
けれど彼女が浮かべる寂しさを消すことは出来なかった。
溜め息をつく、霧原蓮。
気分転換のつもりで来た公園だったが、行き詰まった蓮は余計な事ばかり頭に浮かんでしまう。
『はぁ――』
ここ数日、溜め息ばかり。
今、奇妙な事件の捜査に一般協力として参加している。
探偵のアルバイトをしている蓮は、その事件の始まりに遭遇していた。
元々、警察に顔の効く所長・柊純一の事務所で働く蓮は過去の功績も買われ、知り合いが捜査の指揮を取っている事から、一般協力という形で参加する事となる。
しかし、ここ数週間進展のない捜査に、本部は行き詰まっていた。
再び漏れる溜め息。
そして彼女の顔が浮かんだ。
・・・・・・大海 弦。
過ごした時間は僅かだが、決して忘れることの出来ない出来事。
彼女の事を思うと後悔ばかりが押し寄せてくる。
何故守れなかったのかと・・・。
辞めていた煙草も復活してしまった。
蓮は思考を切り替えるように煙草を取り出し口にくわえる。
そして、くわえた煙草に火をつけると蓮は顔をあげた。
「・・・・・・!?」
煙を吐き出し、世界に戻ってきた蓮の瞳がその姿を見つけ、驚きに立ち上がる。
夢を見ているのかと思った。
見失った姿に蓮は探すが、見つける事は出来なかった。
「そんな、まさか・・・!?」
信じらなくて零れる言葉。
そんなはずは無いと頭を振ると、纏わりつく視線を感じた。
恐る恐る顔を向けた蓮は息を呑む。
『・・・・・・弦』
震える声を出す蓮。
そんな蓮を公園から見える車道の向こうから嘲笑うかのように、唇を吊り上げる。
その姿は悪魔の使者に見え、喉に張り付く刺し傷は聖痕のようだった。
慌てて走り出す蓮だが、次の車が弦の前を通り過ぎた時には、その姿はなかった。
まるで幻を見ている気分に蓮はなる。
その瞳には彼女と過ごした時間が映っていた。
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