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夢を見ていたの――。
それが夢だと分かるくらい何度も見た、悪い夢。
雨が降っている中、私は見下ろす。
自分に、そう自分に似ている少女を雨の中、冷たい雨と同じ目で私は見下ろす。
苦しげな彼女の姿に私が笑みを零すと、白銀に輝くナイフを振り落とす。
そのナイフが彼女の声を奪い去る。
声にならない悲鳴が私の身体にも伝わり、彼女は喉から一筋の紅き液体を涙のように零す。
空を見上げるように倒れた彼女。
『バイバイ――』
そんな彼女に私はキス出来るくらい顔を近づけて言う。
すると喋れない彼女が言うんだ、
「――あなたがね」
その声に気づくと、横たわる彼女が自分に変わる。
喉に傷をつけた私が見下ろし、怪しげに笑う。
『そんな・・・・・』
そして、彼女が振り下ろすナイフが私を貫いた。
先程の私と違い喉ではなく、しっかりと心臓を狙い突き刺す彼女のナイフは何の抵抗もないまま身体に飲み込まれていく。
そして彼女が言う。
『バイバイ、私―― 』
キスが出来るくらい近くにある顔は微笑むと、ゆっくりと立ち上がる。
それとともに抜かれていくナイフから、紅き雫が零れ落ちた。
その感覚総てが妙にリアルで、自然と私の表情は歪み、叫びをあげる。
けれど、そんな私を気にする事なく彼女は私に背を向け去って行く。
―――ピッ、ピッ、ピッ。
そして何時ものタイミングでセットしていたアラームがなるんだ。
『・・・・げぼっ!?』
何時もなら直ぐに目を覚めるのに、なかなか現実に戻れないでいた、私。
すると、視界の端に黒い影を見る。
『・・・助けて』
消えない痛みに助けを求めるが、黒き影はただ見下ろすだけ。
『た、す、けて・・・』
「・・・誰をだい?」
『私を、私を、助けて。―――げほっ』
張り上げた声に蒸せる私だったが、影は動く事なく口を開く。
「君ならもう助けたよ・・・」
『へっ?』
「偽らないで済むよ、これからは」
影の言葉に驚く私。
見上げた先にいる影を見ると、虚ろで感情の読めない漆黒の瞳で、悪魔のように微笑む。
その笑顔はどこまでも優しかった。
優しかったんだ。
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