母の訃報

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母の訃報

突然の母の訃報だった。 私、鮎原琴美は携帯電話の留守番電話のメッセージを聞いて驚きを隠せなかった。 知らせてくれたのは、高校までお世話になった近所の人。 母とは私が東京の大学に進学してから一度も会ってはいない。多分、今年で十年は経つだろう。 第一志望が東京の大学だったため、通学に不便だからと独り暮らしを始めたのだ。それから一度も、実家には帰っていない。 学費は奨学金制度を利用していたので、バイトと通学だけの生活を四年も続け、就職活動もそのまま東京で行ったので、自然に実家とは疎遠になっていた。 気が付けば、東京で暮らして十年。働いてから八年目に突入している。 取り敢えず、実家に戻らないと詳細が判らないので、携帯電話で会社の上司に連絡を取ると、母の訃報を伝えた。 上司は『申請書は戻ってからでいいよ。辛いだろうけど、気を落とさないで欲しい。』と励ましてくれた。 電話を切り、私はふと思った。 母が亡くなって辛いとも、悲しいとも思わないことを。 十年以上も会っていないせいだろうか? 判らないが、感情が沸かないまま、自分のマンションの部屋に戻ると荷造りを始めた。 そして友人たちにメールで母の訃報を伝え、しばらくは戻れないこともメールで伝えた。 喪主は多分、私だろう。身内もいないのだから。 荷物をまとめて、私は部屋を出た。 電車に乗り、窓から見える景色を眺めながら、ふと十年前の家を出た日のことを思い出していた。
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