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『琴実へ。母はもう長くはありません。これは罰なのでしょう。それでも私はこの部屋にいたかった。貴女とお父さんの三人の思い出が詰まったこの家を出るなんて考えられない。死ぬまでここに住み続けたい。その前に、琴実に伝えなくてはいけないことがあります。あなたのお父さんのことです。読んでいる通り、貴女は不倫の末に生まれた子供です。でも、お父さんは貴女が生まれた時、すごく喜んだのよ。でも、時間が経つにつれてお父さんは変わっていきました。そしてあの日、お父さんはお母さんと別れると話を切り出したのです。どうやら奥さんにばれてしまい、お母さんと別れてよりを戻したいと言い出したのです。お母さんは泣いて反対しましたが、駄目でした。だから私だけのものにしようと考えました。』
「私だけのもの・・・・?」
嫌な予感が脳裏を過ぎった。もしかして、母は父を・・・?更に文章が続いている。
『包丁でお父さんを刺して、殺しました。許せなかった。私を捨てるなんて・・・。でも、大丈夫。これでお父さんは永遠に私のものになった。だからここから離れることが出来なかった・・・。』
「何を言っているの?」
はっと思い、私はカレンダーの方に視線を向けた。考えてみれば、カレンダーが貼ってある部分は、元々は壁ではなかったはず。日記を置いて、私はカレンダーのところに歩み寄った。
そしてゆっくりと剥がした。
「イヤァァァァァァァァァァァッ!」
部屋中に悲鳴が木霊する。
それを無視するかのように、日記にはこう書かれていた。
『お父さんの死体を壁に埋め込んだの。顔だけは埋めないで、カレンダーで隠してあります。これでお父さんはいつも私たちと一緒です。』
頭の奥で狂気に支配された母の笑い声が聞こえたのは、気のせいではなかったのだ。
この家は母にとっては思い出の家。
母が父を殺し、自分のものにしたという思い出の・・・・・・・。
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