🌃世界一の美女🌃

煙草を吸うハイエナ

彼女が話しをする時の容姿だ。

彼女が何かを考える時の目の動かし方、話している時の唇の形、息遣い、色、艶、膨らみ、それは見ているだけで心癒やすものである。

映画や煙草や会話なんて、最初から全てゴミ箱に捨てちまってりゃ良かった。

僕には"これ"だけで十分なんだ。
それだけで満ちた「…殺したんです。」

と彼女は言った。

「？…ごめん？？」と僕。
一人で悦に入っていたようで聞き間違えたような気がしたのだ。

「なんでもないですよ、特に気になさらずに。」と彼女は控えめに答えた。

僕は彼女を見る。

彼女は林檎を剥いた果物のナイフを元のケースに差し込む。
「林檎、美味しかったですね。」と彼女。

僕はそれに頷く。

彼女は続ける。
「南欧産の果物には特徴があるんです、地中海の風の匂いが味になってそれ…｣
「何を殺したの？」僕は言葉を遮って質問した。

七秒ほどの間を空けた後、彼女はそれに答える。

「両親です。」

「君が？？」

「いえ、姉が。」

「どうして？？」

「私達は虐待を受けながら育てられたから、それがいつまでも尾をひいていて、姉は果物ナイフで両親を滅多刺しにしたんです。｣

いかばかりかの衝撃があったが、その前に僕は不手際を謝る。
「変な事を聞いてしまってごめんよ。」

「いいんです。林檎を剥いてたら、急に思い出してしまって、なんとなく話してしまっただけですし。」

「いや、でも悲しい思いをぶり返してしまったんじゃないかな？」

「普通ならそうかもしれない。けれども私はそう思わなかった。それよりも胸がスカッとしたんです。姉はやるべき事をやり、両親はやられるべき事をやられたんです。後は私だけです。」

僕はその言葉を聞き考え込み、彼女は口を閉じ、深海の砂が居間に降り積もるような沈黙が訪れた。

それからしばらくした後、電話のベルが鳴り響き、深海の砂は跡形もなく飛び散っていった。

「私は何かしらの罪悪感を背負っているんです。」
受話器をとることもなく、電話機に向かうこともなく彼女は呟いた。

「わからないな。
君はどんな罪悪感を背負っているんだい？。」

「姉の犯行を止めれなかった事、両親の死に涙の一つも流せなかった事、彼らは転落したのに私だけが悠々と生き残っている。」

「それは罪じゃない。」

「本当にそう思いますか？」

電話のベルはひどく苛立っているかのように鳴り響いていた。