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「…なあ、どうして私が吸えもしない煙草を吸うのか、わかるかい?」
彼は首を横に振る。
火は一瞬だけ光を強くし、私は煙をもわと吐いた。王様のようには中々うまくいかない。
「こうすればね、王様の気持ちが少しでもわかるんじゃないかと、そう思ってね。」
むせながら、煙を吸い、吐く。
煙草のパッケージ赤い柄が闇にまぎれて笑っている。
煙草は貴方の身体に害を及ぼす可能性があります、棒読みしながら笑っている、そう読みながら私を笑っている気がした。
「なあ、ジャン。」
煙草をくしゅと潰す、私は彼に告げる。
「…もしかしたら、もう会えないかも知れない。」
唐突な別れの言葉にも関わらず、ジャンは冷静だった。
多少の驚きは見せたものの、落ち着き、ゆっくりと口を開く。
「どこか遠いところにでも行くのかい?」
「まあ、そんな所かな。」私ははにかんだような苦笑いで、彼に答える。
「そうか、寂しくなるなあ…。」
ぽつりと呟くと、彼は私の隣に座った。
「それでも、僕らは友達さ。そうだろう?」
目をくりくりとさせ、私を見つめている。
「もちろんだよ。君は私の友達だ。」
「なら問題はないよ!」
パァッと明るい声になった彼は、すくと立ち上がると私に言った。
「会えなくたって、大丈夫!僕らはずっとずっと大丈夫!」
彼の笑顔は、たぶん今この暗闇の中で一番輝いている。
私達は宴会の輪に戻ると、たくさんの酒を飲んだ。
私は、不思議と泣かなかった。とても、楽しい夜の事だった。
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