第1話「ツミとホッペンケルケ」

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「…なあ、どうして私が吸えもしない煙草を吸うのか、わかるかい?」 彼は首を横に振る。 火は一瞬だけ光を強くし、私は煙をもわと吐いた。王様のようには中々うまくいかない。 「こうすればね、王様の気持ちが少しでもわかるんじゃないかと、そう思ってね。」 むせながら、煙を吸い、吐く。 煙草のパッケージ赤い柄が闇にまぎれて笑っている。 煙草は貴方の身体に害を及ぼす可能性があります、棒読みしながら笑っている、そう読みながら私を笑っている気がした。 「なあ、ジャン。」 煙草をくしゅと潰す、私は彼に告げる。 「…もしかしたら、もう会えないかも知れない。」 唐突な別れの言葉にも関わらず、ジャンは冷静だった。 多少の驚きは見せたものの、落ち着き、ゆっくりと口を開く。 「どこか遠いところにでも行くのかい?」 「まあ、そんな所かな。」私ははにかんだような苦笑いで、彼に答える。 「そうか、寂しくなるなあ…。」 ぽつりと呟くと、彼は私の隣に座った。 「それでも、僕らは友達さ。そうだろう?」 目をくりくりとさせ、私を見つめている。 「もちろんだよ。君は私の友達だ。」 「なら問題はないよ!」 パァッと明るい声になった彼は、すくと立ち上がると私に言った。 「会えなくたって、大丈夫!僕らはずっとずっと大丈夫!」 彼の笑顔は、たぶん今この暗闇の中で一番輝いている。 私達は宴会の輪に戻ると、たくさんの酒を飲んだ。 私は、不思議と泣かなかった。とても、楽しい夜の事だった。  
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