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キツネがうちに来てから、いや、キツネをうちに連れてきてから五日が経った。
初めのうち、キツネは私をただただジッと見つめ何をする事もなく、ただ私が差し出す飯を食らっていたが、二日目のある日に彼はふと言葉を発した。
「淋しいのかい。」
私は戸惑うこともなく、ましてや驚きもせずにただ彼を見つめ、頷いた。
彼ほどのキツネならば、言葉を発しても不思議ではないと思えたからだ。
紅く燃える瞳、どこか上品な顔立ち、金色の草原、どれを取っても彼は完璧なキツネであった。
「おはよう、今日は早かったですね。」
私が顔を上げるとキツネが台所に立ち、包丁を握っている姿が見えた。
「そんな事しなくてもいいのに。」眠い目を擦りながら、私はパジャマを脱ぎはじめた。
白い肌に、ぼんやりと大陸が浮かんでいる。
指先でなぞると、サーモンピンクのその大陸は少しだけ敏感に感覚を伝達し、17歳の私を呼びさます。
「その痕…。」キツネが目を丸くして私の大陸を見つめた。
まな板には輪切りになったたくあんが行儀よく切られている。
「これ?ちょっとね。」私は苦笑すると、すぐにTシャツを被り適当なGパンを履いた。
キツネは、ああ、そうですかというような顔でまたたくあんと対決をはじめる。
その日、キツネが作ってくれた朝ごはんはとてもおいしかった。
だが、たくあんは皮一枚で繋がっていて彼と私でロンドン橋を作ってしまったのだが、二人して笑っていた。
はじめて、笑った気がする。
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