第2話「紺涙のキツネ」

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朝目覚めると、私は兄の部屋に居た。どうやらあのまま眠ってしまったらしい。 喉と鼻がいがいがする、むずむずする。 まるで兄との思い出を飲みこんでしまったようだ、もうあの優しい兄は居ない。 優しかった兄は死んで、優しくなれなくなった私がいる、弱くなった母がいる。 そして母は、私の身体にできてしまった火傷の痕を恨んでいる。 「もしもあの時私がきちんと台所に居たら」きっとそんな事を考えているのだ。   数ヶ月前、母はちょっとしたボヤを起こした。家はさほど燃えなかったのだけれど、消火をしていた私に火は燃え移り、私の背には酷い劣等感が残ってしまった。 火事の原因は、母の長電話であった。当時、恋をしていた母は(父は何年も前に病気で亡くなっていたし)天ぷらを作っていたのを忘れ、最愛の彼と長電話をしてしまっていた。   案の定、鍋は発火し台所に火のちらちらとした粉が舞う。 私は懸命に消火をした、し続けた。 母を呼びながら、何度も叫びながら、私は必死に。母は、私の体が少し焼けてしまうまで気付かなかった。 私の体には、劣等なる列島が産まれた。
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