54人が本棚に入れています
本棚に追加
朝目覚めると、私は兄の部屋に居た。どうやらあのまま眠ってしまったらしい。
喉と鼻がいがいがする、むずむずする。
まるで兄との思い出を飲みこんでしまったようだ、もうあの優しい兄は居ない。
優しかった兄は死んで、優しくなれなくなった私がいる、弱くなった母がいる。
そして母は、私の身体にできてしまった火傷の痕を恨んでいる。
「もしもあの時私がきちんと台所に居たら」きっとそんな事を考えているのだ。
数ヶ月前、母はちょっとしたボヤを起こした。家はさほど燃えなかったのだけれど、消火をしていた私に火は燃え移り、私の背には酷い劣等感が残ってしまった。
火事の原因は、母の長電話であった。当時、恋をしていた母は(父は何年も前に病気で亡くなっていたし)天ぷらを作っていたのを忘れ、最愛の彼と長電話をしてしまっていた。
案の定、鍋は発火し台所に火のちらちらとした粉が舞う。
私は懸命に消火をした、し続けた。
母を呼びながら、何度も叫びながら、私は必死に。母は、私の体が少し焼けてしまうまで気付かなかった。
私の体には、劣等なる列島が産まれた。
最初のコメントを投稿しよう!