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「そのような事を言われましても、いえ、ね、王様、そのような事は、いえ、はい。」
昭和をおもわせる黒電話を両手でしっかりと掴みながらウサギは焦っていた。
王様は気まぐれだ。さっきまで空の青さを歌っていたかと思えば、今はもうあのきたならしいホッペンケルケの住人どもの事を考えていらっしゃる。
ウサギは焦っていた。
ホッペンケルケというのは、このツミの国でも最北端にあり、七月だと言うのにまだ雪が降るようなとても寒い村だ。その村ではイデアと呼ばれる、カエルのような奴らが暮らしており漁業などで生計を立てている。
ウサギは、そのホッペンケルケに友人がいた。ここ暫くは公務が忙しく、なかなか会う事ができないが今度の休みにあの村では珍しい山菜や野菜をたくさん手土産に遊びに行こうと考えていたところだった。
「はい、はい、わかりました。そのように致します、ええ、はい。」
受話器をにぎる手が震える。汗で滑りそうになりながらも、ウサギはきちんと握りしめていた。
ホッペンケルケの住人は、とても下劣だ。
あのねばねばした身体、縱に切れたあの瞳、あの青菜を煮たようなどろ臭さ。
ああ、考えただけで吐き気がする。これではオヤツのプレッツェルも喉を通らない。
その上あの下劣で愚かな奴らと言ったら、まるでアリのように卵を産む。その繁殖力といったらもう、おなかにヘドロがたまっていくようだ、ああ、きたならしい。
きっと奴らはそうやって子供を増やし、このツミの国に攻め入ろうとしてるに違いない。
そうだ、そうに違いない。
ウサギ、いいか、聞いているな?しっかりと聞いているな?
ホッペンケルケの奴らを、反逆罪でひっとらえろ。ん、いや、まてよ。
奴らのぬめぬめした体液を城にいれるわけにはいかないな、よし、こうしよう。
殲滅だ、殲滅しよう。
奴らは大量の軍隊を持っていて、なにか危険な大量破壊兵器を隠しもっているのだ。だから、殲滅する、いいな、ウサギ。
次、玉スイカが実る頃までにきちんと「仕事」をしておくように。
よいな、ウサギ。
ウサギは焦っていた。
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