54人が本棚に入れています
本棚に追加
「よう、ウサギ。そんな浮かない顔をしてどうしたんだい?」
ひらひらのついた、いかにも高そうな服を着て彼は私に近づいてきた。
「ああ、キツネか。久しぶりじゃないか」
手に持っていた煙草をくしゅりと潰して、「ここ暫く見なかったが、どこか旅行でも行ってたのかい?」キツネを見つめる。
「いや、なぁに、ちょっとした息抜きに人間界に、ね。」ウサギは息を飲んだ。
「に、人間界だって?そんな危ないところにわざわざ行ったのか。」その言葉を聞き、キツネはウサギを鼻で笑った。
「はは、君は何も知らないんだね。」
近くにあった椅子をくるりと反転させ、背もたれを抱くようにしてキツネは座った。
彼の行動を目で追いながら、ウサギは次の言葉を待つ。
「最近の人間界ではね、やれ動物愛護だ、やれ自然保護だので僕たち動物をやけに大事にしはじめてるのさ。あのネズミたちでさえ、ちやほやされるんだぜ。」
キツネは誇らしげに、語った。
「そ、それならカエルは…カエルはどうだい?カエルもちやほやされているのかい?」ウサギはまだ、ホッペンケルケの人たちの命を諦めたくなかったのだ。少しでも望みがあるのならば、それに賭けたい。彼らには、国を捨ててもらうことになるが命には変えられない。
「カエルぅ?カエルがちやほやされる話なんて聞いた事がないぜ。あ、そうだ、そういえば人間界ではカエルを解剖するらしい。」
「カイボウ?」
「身体を切り開いて殺す、って事さ。なんのためにそんな事するのかはわからないけれどね。」
「そ、そんな…」
ウサギの、ほんの少しの希望は粉々にされた。
結局人間界に行ったとしても、彼らは殺されてしまうのだから。
最初のコメントを投稿しよう!