第1話「ツミとホッペンケルケ」

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次の日の朝、キツネはいつも以上にお洒落をして城へと出かけた。 せっかくの洋服が汚れてしまうからと、さほど遠くない道でも馬車を使う。 砂利道を蹴りながら、ウマはキツネに聞いた。 「へい、キツネの旦那。そんなにおめかしして、今日はどちらにお出かけで?」 するとキツネは鼻をふふんと鳴らして、 「なあに、ちょっとお城までね。」とすまし顔であった。     「おお、キツネか、久方振りだな。人間界はどうであった?」たてがみを掻きむしりながら、王様はキツネに問うた。 深々と頭をさげていたキツネは、ほんの少しだけ頭をあげ、王様の鈍い耳にもきちんと聞こえるようにこう話した。 「いえいえそんな、話すほどの事はございません。と言いますのも、どう比べてみてもこのツミの国のほうが幾千倍も素晴らしいのですから。空気はおいしい、食べ物も豊富、住民は皆愛に溢れ、緑の多いこの素晴らしきツミの国に、どこの国が敵いますでしょうか?なにより、国の頂点に立つお方の気品、オーラが違います。人間界のライオンは、どれもふぬけです。人間に飼われる事によって様々なやる気、気品、威厳を失っておられます。ですが、我が国の王はどうでしょう!その毛の艶、立派な牙、鋭くシャープな爪、爽やかなお顔立ち、そして何より王としてのオーラ!我が国がここまで素敵なのも全て、王様あってこそなのです。」 約6分の間、キツネは休みもせずにただただ続けた。その間、王様といえばずっとニヤケたままで、いかにも楽しそうにキツネの話を聞いていた。 「そうかそうか、どうやら我が国を見直す素晴らしい機会になったようだな。」にこやかに、そう発した王様の口にはきたならしく黄色い牙が並んでいた。 王様が二回、手を叩くと隣にいたヒョウが葉煙草に火をつけ、王様に手渡す。 それを満足そうにくわえると、ぷかぁ…と音が聞こえるほどに煙を吐いた。 その煙がヒョウにあたるが、ヒョウは口髭ひとつ動かさない。じっと、キツネを見ている。
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