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「…なに、怖いの?」
そう言いながら彼は未だに素っ裸のままでベッドの上で上体を起こしているだけの俺に、起き上がるときに除けてしまった、薄手の毛布を巻き付ける。
「……」
別に怖かったわけではない…と、思う。
彼は今まで一緒に過ごしてきた間、俺はもちろん周囲の人間に手を上げたことなどなかったし、争い事自体、彼は「嫌いだ」と言っていた。
だけどそれでも力での暴力なんて有り得ないと、核心めいたことを思いながらも、或いは何かしら言葉での追究はあるのだろうという恐れなら、抱いたかもしれない。
それなら多くの時を共に過ごしてきた彼は、俺がこんなことを考えることをもわかっていたのかもしれない。
つむった目を開くと、途端、彼の真っすぐな視線とぶつかった。
俺を捉えたその眼は、鋭くて野性的な顔や体躯の彼の美しさを際立たせるものだと思った。
「…お前は?」
唐突に言った俺の言葉に少しだけ首を傾げ、続きを待つ仕草は、彼が本当に困っている時の癖。
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