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プロローグ
─パシャッ パシャッ パシャッ
冬の寂しい山道を、一台のベスパがノロノロと走っている。そのふらふらとした走りは、今にも転けそうで見ていて非常に危なっかしい。
ベスパを運転する少年、斎藤明が寒々しい山肌に見とれていると、そのすぐ横を一台のトラックが猛スピードで追い越した。
「うわぁ!?危ないなぁーまったく!ぶつかってカメラが壊れたらどうする気だよ!?」
少年はその後もぶつぶつと言いながら、ノロノロとベスパを走らせる。
「あ、ここ良い感じ♪」
山と山を繋ぐ橋の上でベスパを停め、肩に掛けたカメラを構える。
すぐ下には綺麗な川が流れ、紅葉した木々の葉が大量に流れている。
─パシャッ パシャッ パシャッ
─パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ パシャッ
─パシャッ パシャッ パシャッ……ジィィー
巻き取りの低い音が響く。
「あ…切れちゃった。予備のフィルムあったかなぁ…」
少年は小さい体には不釣り合いな大きい鞄をひっくり返し、未使用のフィルムをガサガサと探す。
だがいくら探しても、目的の物は出てこなかった。
「ちぇっ。良いところだったのになぁ…。これからって時になんで切れるかなぁ…。ぶぅぅー。帰ろぉっと。」
少年はふて腐れた顔でベスパに股がり、自宅に向かってノロノロと走り出した。
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